東方VGSで「東方星蓮船 〜 Undefined Fantastic Object.」より2面のテーマ「閉ざせし雲の通い路」を配信しました。(Pull Request)
Apple Music の原曲はコチラ。
【元ネタ分析】
ニコニコ大百科によると 曲名は僧正遍照の歌「天つ風 雲の通ひ路 吹きとぢよ をとめの姿 しばしとどめむ」からか とのこと。
小倉百人一首に採用されている和歌ですね。
遍照(へんじょう)は平安時代の歌人です。(816生〜890没)
桓武天皇の孫で親は大納言・良岑安世(よしみねのやすよ)という生粋のボンボンでしたが、850年に出家して僧侶になりました。
仮にBL小説だったとしても、こんなキャラ出したら設定盛り過ぎな感がありますが、更にイケメンだったようです。理解が追いつきません^^;
出家前後で歌の作風が変わったと言われ、出家前は情感あふれ、出家後は知的で客観的になったと言われてます。クリエイターあるあるですね。環境の変化はクリエイターの作家性に大きな影響を与えます。出家することが稀になった現代でも、例えば結婚前後で作風が変わる作家さんとかが割と多い気がします。
上述の歌「天つ風〜」は出家前の作品です。
「雲の通い路」は、雲の上にある天上と地上の通路(天女専用)で、この歌を少しだけ意訳混じりに現代語訳をすると「天女マジぱねぇw 帰り道吹き飛ばしてもっと眺めていようぜ!」みたいな感じでしょうか。
パリピ怖い...
なるほど、だから閉ざしてしまったのか。
原作者様コメント引用:
2面のテーマです。
1面とは異なった浮遊感を出してみました。
妖怪がいるであろう雲の中を泳いでいます。
想像すると気持ちよさそうだけど、実際は寒いだろうね。
服が凍ったりするんじゃないかな。ガッツ足りるかなぁ。
浮遊感のある曲、好きです。
個人的に「浮遊感がある曲」で真っ先に思い浮かぶのはJ.S.Bachのパルティータ6番です。文章を書く系の作業や仕事中に、YouTubeがレコメンドしてくるバッハの曲を無限に聴く事がよくありますが、パルティータ6番が流れると思わず昇天しそうになり筆が止まります。(浮遊の種類が違っている感)
ちなみに、飛行機の巡航高度(だいたい33,000フィート)だと外気温はマイナス50度ぐらいだからすごく寒そうですが、ガッツがあれば大丈夫...なのかな?
この「ガッツ」というキーワードが割と好きでよく使っています。直近ではQiitaで書いたゲームギアのプログラミング解説の記事でも無意識で使ってました。
(引用)如何せん文量が多くついでに全部英語なので、読むにはかなりのガッツを要しましたが、何とか一通り読んで咀嚼した内容を本書で解説しつつ(以下略)
という訳で以下、この曲をアナリーゼした内容を3ガッツぐらい使って書きます。
【全体構成】
- 構成: 2-5構成(2つのモチーフを5パートで構成)
- A → B → C → A' → C'
- C は B を展開したモチーフなので 3-5構成 ではなく 2-5構成 としてます
- テンポ: 160(A,C)、151(Bのみ)
- 拍子: 4/4
- 主調: ハ短調
【A】
3連符を繰り返す2小節1単位のモチーフです。
前半8小節(2〜9小節)は単音で下図の2小節を4回、
後半8小節は低音を追加して4回繰り返します。
このパートは、雲の通路を通って天上に昇っていくイメージを表現しているものと思われます。ただし、このパート単体で見ると上昇というよりはフワフワと浮遊しているイメージですが。
先程、J.S.Bachのパルティータ6番を「浮遊感のある曲」として例示しましたが、トッカータのこの辺り(0:57)から1:15辺りまでが天に召されていく(昇っていく)ようなイメージなので連想したのかもしれません。(やや無理やり感がありますね^^; 単にパルティータ6番がものすごく好きだから聴いて欲しいというオタク特有のアレかもしれません)
当初、「3/4拍子で16分音符のリズムかな?」と判断して下図のように採譜していたのですが、それだとドラムのタイミングが取れないので「8分3連符の4/4拍子」と判断しました。
楽器毎に異なる拍子で1小節の長さを同じにすることも出来るので、メロディーは3/4とする解釈自体は間違いでは無いと思います。(Logicだと複数の拍子を同じタイミングで重ねる譜面形式では仕様上作れないので、採譜時は統一する必要がありますが...)
3/4拍子の場合、テンポ120(160 ÷ 4 × 3)でタイミングが合います。
理屈はよく分からないのですがテンポ120が一番拾いやすいです。
だから、当初聴いた時は「3/4かな?」と勘違いして採譜してまったのかもしれません。
テンポ120は特に特別な感じがするので何か根拠があるのかな?と思って調べてみたのですが、説得力のある根拠は見つかりませんでした。(普段、12進法の時間軸の中で過ごしているから慣れている...とか色々とありそうな気がするのですが)
あと、以下の4分音符のユニオンですが、これもメロディーですね。
後半は1オクターブ高くなります。
こういう場合、オクターブ上がる出だしで半音階グリッサンドを入れてアレンジをするのが私のアレンジの定番なので、今回もやっておきました。
【B】
Bは短い8小節の短いフレーズですが、ハ短調(主調)でこの曲のメインテーマを最初に提示する大事なパート(主題提示部)です。
また、このパートだけテンポを151に落としている点が特徴的です。
恐らく、このテンポ変化には表現上重要なセンテンスが込められていて「昇りきった感」(もう少し具体的に表現すると飛行物体が巡航高度到達時の加速度変化)を音楽的に表現しているのではないかと考えられます。
地霊殿の2面(渡る者の途絶えた橋)もそうでしたが、星蓮船も2面のテーマ曲もストーリー性に富んでいてアナリーゼしていて楽しいです^^
ですが、一般ウケするタイプの曲ではないかもしれません...どちらかといえば、かなり「通好み」な曲だと思います。実際、人気ランキングの初回登場時(第7回)は353曲中189位、第15回では529曲中313位なので、決して上位ではないけど常に真ん中よりちょい下ぐらいの順位を安定的にキープしています。
このテンポの変化は、表現上だけでなく音楽としても重要な意味があって、この曲のメイン主題(C, C')は基本的にこのメロディーを展開する形になっているので、ゆっくりした主調で演奏することで印象深く提示できる効果もあると思います。
【C】
このパート以降はずっとa tempo(160)です。
このパートでは、【B】を展開した8小節1セットのモチーフを2回演奏しますが、4小節毎に転調しているので、とても変化に富んでいるパートです。
①最初の4小節は、半音下(-1)のロ短調に転調
②次の4小節は、長三度下(-4)のト短調に転調
③次の4小節は、増4度(+6)の嬰ハ短調に転調
④最後の4小節は長三度下(-4)のイ短調(ハ長調)に転調
これは流石の私でも転調していることには気づきました。(4小節毎ということには最初気づかなかったけど^^;)
結構マニアックな転調を挟んでますが、対応するモチーフ箇所「①③」と「②④」の調性を見てみると、全音長(+2)転調の関係になっている(つまり、①②を+2した調性が③④になっている)ことが分かります。全音長の転調は、楽譜記号の#が2つ増えるか、♭が2つ減ります。つまり、ドミナント転調を2回したもので、これはとてもスタンダードな転調です。
また、最終的に主調のハ短調から、短三度下(-3)のイ短調(ハ長調)に同主調転調しています。これもとてもスタンダードな転調です。
転調しまくっていて長三度下や増4度といった扱いが難しい転調も挟んでいる(だから転調していることが初見で分かる)ものの、それでいて安定感があるように聴こえるのは恐らくこのためです。
不安定な中にある安定感(?)みたいなものにより、この曲のテーマである「浮遊感」が巧く表現できていると思います。
また、①〜④の各先頭の音のピッチを見ると「①↑②↓③↑④」と上下に動いているので、これもフワフワしている「浮遊感」の表現かもしれません。
【A'】
調性がハ短調からイ短調に同主調転調(-3)しています。
3連符のメロディーの楽器がリードからピアノに変わっていますが、単純に楽器が変わっただけでなくアルペジオのパターンも若干変わっています。
また、次パートがBではなくC(C')なので、最後の半小節でリードで繋ぎのメロディー(ソ>レソ)が入りつつ、アルペジオも3連符から8分音符(G-Dur)の昇り形状に変化します。
結構他の方の耳コピ譜も参考に見させて頂くことが多いのですが、この形で採譜されている方があまり居なかったので自信ありません^^;
当然ですが、自分のコピーが間違っていて治すこともよくあるので、ニコ動やYouTubeにピアノロール付きで動画をアップロードして頂いている方々には感謝しています。
あとは、このパートの最後でベースのスライドダウンが入ってますね。
【C'】(コーダ)
Aの三連符を伴奏として追加しつつ演奏してフィニッシュです。
①最初の4小節はホ短調から始まります。
- 【A'】の調性(イ短調)からドミナント転調の関係(曲の流れ)
- 【C①】の調性(ロ短調)とはサブドミナント転調の関係(構成上の変化)
②次の4小節は、長三度下(-4)のハ短調(主調)に転調
- 長三度下転調するのは【C②】と同じ
③次の4小節は、増四度(+6)の嬰ヘ短調に転調
- 増四度転調するのは【C③】と同じ
④最後の4小節は、長三度下(-4)のニ短調に転調して最後の1小節だけ多分ニ長調に転調します。
- 長三度下転調するのは【C④】と同じ
その後、付点四分休符を挟んだ後、先頭(ドラムソロ)からループします。
3連符の伴奏の形もまた微妙に変形しています。
なお、④がニ短調のまま終わってしまうと、ループした時にニ短調→ハ短調に全音下転調(あまりキレイではない転調)になってしまうので、最後の1小節はニ長調に転調(長調化)することで、半音上転調で次のループがキレイに繋がります。
【余談】
これまで120曲以上、東方Projectの曲でこういう(恐らくかなり独特な)アナリーゼを繰り返してきました。文章化するようになったのは星蓮船に着手してからですが、こうやってドキュメント化しながら作ると、記憶違いによるミスなどが減って良い感じかもしれません。また、コンテキストも深く調べるようになったので、曲に対する理解も深くなったかも?それが創作性に寄与できているのかは、ある程度の時間を置かないと判断できないので、正直まだ分かりませんが。
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