ゲーム業界ではないかもしれませんが、実質ゲームの売上がずば抜けていることで有名なサイバーエージェントの業績分析をしてみます。
【P/L】
売上と利益の偏差値をグラフ化したものを示します。
主要ヒットタイトルとAbemaTV(ABEMA)の先行投資期間を分かりやすくしてみました。
スマホ対応(2013.05)以前もガラケーのソーシャルゲームとブログで荒稼ぎしているイメージがありましたが、2007年〜2012年あたりも利益率の高い成長をして順調に成長していたことが窺えます。
スマホ対応した当初の決算(2013.09)では営業損失を計上していますが、高い経常利益を出して当期純利益は黒字をキープしています。(恐らく、株を売るなどしてとりあえず赤字を回避したようです)
その後、2016年あたりまでは順調に利益率が高い成長をしていましたが、2017年あたりから利益率の偏差値が大幅に悪化しています。
ですが、2021年2月にリリースしたウマ娘により約半期(7ヶ月分)しか計上していないにも関わらず利益偏差値80オーバーの急激な回復をしています。
【メディア事業P/L】
2015.09以降の決算では、AbemaTVの先行投資でガンガン資本投入しています。
以下、メディア事業単体の売上と営業利益です。
メディア事業(AbemaTV)への投資を継続した結果、売上全体に占めるメディア事業の売上高構成比率が2015年の7.42%から2021年の12.43%まで順調に伸びています。
丸6年やって構成比率12.5%(+7%)ということは、単純な線形予測で12年後に19.5%、24年後に33.5%で、構成比率が少ない時ほど少ないコストで構成比率を上げることができる点を勘案すると、投資対リターンのパフォーマンスが随分低い印象です。
売上は2020.09以降から本格的に伸び始めているので「まだこれから」なのかもしれませんが。また、他事業(広告・ゲーム)へのシナジー効果等もあるかもしれないので、単純な単体業績では測れないところもあるかもしれません。
【メディア除外P/L】
2015年以降のメディア事業の売上高と利益(損失)を無かった状態にして、売上と当期純利益の偏差値グラフを作成してみました。
すると、売上と利益がかなり相関するようになったことが分かります。
ただ、2017.09 〜 2020.09 の 4期 の偏差値ギャップ(当期純利益率の悪化)がやや目立ちます。(2020.09は巣ごもり需要もあって若干回復してますが)
この利益率が悪かった期間はシャドーバース、バンドリ、プリンセスコネクトReあたりの収穫期と重なると思います。それらのゲームは客観的に見て結構ヒットしていたように見えたのですが、利益貢献という意味ではイマイチ旨味が無かったように見えます。
ソーシャルゲームの場合、売り切りのゲームソフトと違って古いタイトルでも安定的に収益を出せる資産性のようなものがありますが、運営にもコストが掛かるのでそれが徐々に利益を圧迫しているのかもしれません。(黒字だから切るに切れない→維持にHRが割かれる→パフォーマンス低下→利益率悪化...かな?)
ウマ娘が一気にそれらを帳消しにしているようですが。
ゲームで経営成績を安定させるのは難しいから次の柱としてメディア事業(主にAbemaTV)を育てていく事業戦略なので、今後メディア事業が成長できるかどうかが投資判断のポイントかと思われます。
【AbemaTVの可能性】
ざっくり、テレビ、YouTube、Netflix、TikTokあたりと同じ動画コンテンツを配信するプラットフォームですが、基本的にやっていることはテレビと同じです。(スマホ版テレビ?)
AbemaTVのビスネススケールできる収益モデルは基本テレビと同じ企業広告だと思われます。また、過去動画をオンデマンド視聴できる有料会員サブスクリプションもあるので、テレビよりも収益性は若干良いかもしれません。
- 収益モデル
- Ads
- YouTube
- テレビ
- AbemaTV
- TikTok?
- ニコニコ動画(※おまけレベル?)
- Subscription
- Netflix
- YouTube(※おまけレベル?)
- AbemaTV(※おまけレベル?)
- ニコニコ動画
また、YouTubeやTikTokは一般ユーザーも配信できるUGC(User Generated Contents)という違いもあります。テレビ、AbemaTV、Netflixとの違いは、コンテンツ(動画)の作成コストを運営が負わなくても、ユーザーが勝手にコンテンツを配信してくれることです。
- コンテンツ制作モデル
- UGC
- YouTube
- TikTok
- ニコニコ動画
- プロがコンテンツ制作
- テレビ
- AbemaTV
- Netflix
あとは、大きいのは商売している地域ですね。AbemaTVはテレビと同じなので日本ドメスティックです。日本語の動画コンテンツを海外でヒットさせるのは基本無理だと思います。例外的にヒットするレアケースも無くは無いかもしれませんが、言語の壁は大きいです。
- 地域
- ドメスティック
- テレビ
- AbemaTV
- ニコニコ動画
- グローバル
- YouTube
- TikTok
- Netflix
ビジネスインパクトの大きさは、収益モデル < コンテンツ制作モデル < 地域 だと思います。
収益モデルはその時の状況に応じて変更することができるので、ビジネスインパクトはそれほど大きく無いと見ています。
コンテンツ制作モデルも、プラットフォームが成熟するとUGCとプロ制作コンテンツの差は実質無くなる傾向があります。サービス運用初期のコンテンツ確保や慢性的にコンテンツを制作し続けるランニングコスト(止まれば死ぬ)という点でUGCがやや有利かもしれません。テレビやAbemaTVのようにライブストリーミングでコンテンツを垂れ流し続ける必要があるタイプは運営コストが無駄に高いのでやや不利と見ています。
実際、収益モデルとコンテンツ制作モデルが異なるYouTubeとNetflixの直近の売上高は概ね同じぐらいらしいです。(YouTube: 288億米ドル、Netflix: 297億米ドル)
問題は地域ですね。
【結論】
バンナムの記事でも書いてますが、コンテンツ産業全般の経営戦略として「海外事業の強化」は必須で、ドメスティックでしか戦えないコンテンツ企業は遅かれ確実に淘汰されると思っています。
という訳で、サイバーエージェントの事業戦略は、私が考える事業戦略の方向性と合致していないので、私の投資判断は「投資不適格」となります。(Netflixのようにグローバル展開をする予定があるのかは定かではないですが、国内投資だけで息切れするのではないかと予測)
ゲーム制作会社としては優秀だと思いますが、そのゲームも日本向けのマーケットインに注力しているようなので、グローバルでは厳しいと想定しています。ウマ娘の中国語版とかも出そうている(既に出している?)らしいですが、日本の競走馬のことを1ミリも知らない外国人にはそこまでウケないんじゃないかなと予測してます。
ただし、投資CFについては、事業の成長に合わせて適切に成長できているので、成長可能性のある優良企業(経営自体は優秀)だと思います。
長期視点での成長率の傾向として、Yon10Y(10年前比)の売上高成長率は4.89倍〜5.57倍、Yon5Y(5年前比の成長率)は1.54倍〜2.29倍と順調に成長しています。
ただし、スマホゲーム参入の2013年との比較が始まる2018年以降のYon5Yは鈍化の傾向を示しているため、スマホゲーム依存では成長鈍化する兆候が見られます。(上図では省略してますがYon3Yでも2013年との比較が始まる2016年以降からの成長鈍化の兆候が見られます)
課題は、
- AbemaTV黒字化(投資やHRのプライオリティを下げる)
- 新たな事業の柱の模索
- 社長の後継者育成(社長の藤田さんはまだ49歳と若いですが、社外取締役を除く取締役が、創業メンバーの日高さんとプロ経営者っぽい中山さんの3名体制で、次世代の人が入っていない雰囲気だから、まだ育成着手していない段階と想定)
あたりかなと。
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