なお、このシリーズで扱うプログラミングの例題のビルドには、パソコンが必要です。OSは私が使っているMac OS X向けに解説を記述しますが、Linux(※ALSAに対応しているもの)やWindowsでも問題ありません。
当面は、基礎編ということで、音についての基本的なことについて書きます。
今回は音の強弱について。
【基礎編2】音の強弱
人間が知覚する音の大小
音には「強弱」という概念がありますが、これは 音波の大きさ により決まります。
ビットレートが16bit のPCMの場合、音波の振幅値は -32768 〜 32767 で、単位時間あたりの振幅値の絶対値を平均化したものの大小 が、人間が知覚する音の大小となります。
ベロシティ
音の強弱というと、ベロシティのことをイメージされた方が多いかもしれません。
ベロシティとは、例えば、ピアノの鍵盤を弱く押すと小さな音が鳴り、強く叩くと大きな音が鳴ることです。
もちろん、ベロシティは音楽表現をする上で重要な要素です。
しかし、必須な要素ではありません。
ピアノとは、楽譜記号で弱く演奏することを意味しますが、ピアノという名前の由縁は、その名の通り「弱く弾くこともできるよ」ということです。ピアノ以前に主流だったハープシコードやオルガンでは、音に強弱を付けることができません。
ハープシコードやオルガンなどの強弱がつけられない楽器でも、当然ながら音楽表現は不可能ではありません。
例えば、筆者が敬愛するJ.S.Bachの時代にはピアノが無かったため、Klavia(鍵盤楽器)で演奏する楽曲は、概ねハープシコードかオルガンで演奏することを想定しています。しかし、その時代であっても、平均律クラヴィーア曲集、6つのパルティータ、フーガの技法など、素晴らしい楽曲が多く存在します。
要するに何が言いたいのかというと、音の強弱表現というのは、あった方が当然良いけど無くても問題ないもの だと言うことができるということです。
しかし、音の強弱で考慮すべき点に、時間の経過による音の強弱の変化(エンベロープ) というものがあります。ソフトウェアシンセサイザーを実装する上で、ベロシティについては最悪余力があれば実装した方が良い程度のものです。
しかし、エンベロープは必ず実装しなければならないもの です。
エンベロープ
エンベロープ(包絡線)とは、先述の通り 時間の経過による音の強弱の変化 のことです。 楽器の音の大きさは、時間の経過により必ず変化します。 これは、オルガンなどの強弱表現ができない楽器にも存在するものです。
(1) AT; Attack Time
例えば、オルガンの鍵盤を押した時、押した瞬間に音が最も大きくなる訳ではなく、一定の時間をかけて最大音量になります。この、鍵盤を押してから最大音量に達するまでの時間のことをアタックタイム(AT; Attack Time)と呼びます。
(2) RT; Release Time
そして、鍵盤を離すと一瞬で消音状態にはならず、一定の時間をかけて無音になります。この、鍵盤を離してから無音になるまでの時間のことをリリースタイム(RT; Release Time)と呼びます。
(3)その他
RT や AT 以外にも音と時間に関係する用語あるので、紹介しておきます
- ST; Sustain
Time (維持時間)
- ATで最高点に達した後 から RTに入るまでの間に音量を維持する期間
- 一般的に弦楽器(ピアノやハープシコードなど)はSTで維持する音量が無音
- 一般的に管楽器(オルガンやトランペットなど)はSTで維持する音量が無音ではない
- DT; Decay
Time(減衰時間)
- ATで最高点に達した後からSTになるまでの時間
(4)エンベロープの全体像
エンベロープの全体像を図示すると、下図のようになります。
エンベロープのイメージ |
(5)まとめ
音のライフサイクルを端的に表すと次のようになります。
無音
→ key-on
→ AT
→ DT
→ ST
→ key-off
→ RT
→ 無音
- key-on: 音を鳴らす指示(鍵盤を押す)
- key-off: 音を停止する指示(鍵盤を離す)
そして、これらをまとめて エンベロープ と呼びます。
エンベロープ(包絡線)とは、 時間の経過による音の強弱の変化 のことと先述しましたが、音のライフサイクル と言い換えた方が分かり易いかもしれません。
(6)重要なのはAT, RT
エンベロープの内、特に重要なのが
AT
と RT
です。DT
と ST
については、最悪実装しなくても 楽器 になります。
実際、VGSの波形メモリ音源でも
DT
と ST
は実装していません。 しかし、AT
と RT
については、実装しなければ楽器とは呼べないお粗末なものになってしまうため、実装が必須なため、VGSの波形メモリ音源でも実装しています。
なお、本ブログで取り扱うPSG音源については、
AT
、DT
、ST
、RT
全てを実装することにします。そのため、本書の内容をマスターすれば、VGSよりも優秀なチップチューン・ソフトウェアシンセサイザーを開発することができるかもしれません。
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