67か国に1,200人以上もの従業員を抱えるオール・リモートワーク企業のGitLab社が、リモートワーク導入のためのPLAYBOOKを公開していることがIT MediaやGigazineなどで紹介されました。ただし、それらの記事でPLAYBOOKの全体的な内容については、ざっくりとしか説明されていないようです。
PLAYBOOKは以下URLから無料でダウンロードできるので、各々が内容を確認すれば良いとは思いますが、如何せん全部英語で書かれているので、読むのが結構大変ではないかと思います。全部翻訳しても良かったのですが、英語の方がしっかりコンテキストが伝わります。私はこういったテキストを読む時(正確には読んだ後)、全体を俯瞰的な視点で記した要約書みたいなもの(読書感想文を論理的にインデクス化したもの)を作るのですが、その要約書を記しておこうと思います。幸い、3章以降はオリジナルのPLAYBOOKの方にその要約書に相当する解説が載っているので、結構楽に作ることができました。
https://about.gitlab.com/company/culture/all-remote/
PLAYBOOKは、以下の6章で構成されています。
そして、3章以降(実践編)では章末に「何をすべき」で「何をすべきでないか」が簡潔に纏められています。
- 仕事の未来に備える
- 企業のリモート対応段階
- リモートワークの基礎
- 移行を実現する
- リモートコミュニケーション戦略
- リモート企業文化の確立
1章では、リモートワークを採用した企業の従業員がすべきことを管理職向けと一般職向けで分けて記載しています。
(管理職がすべきこと)
- リモートリーダーシップチームの設立
- ハンドブックを確立
- コミュニケーション計画策定
- ツールスタックの最小化
- 変化を促す
(一般職がすべきこと)
- 集中できる専用のワークスペースを作る
- 生活と仕事を分離する
- 孤独を避け人々との関わりを絶たない
- ルーチンを尊重しつつ変化を試みる
- 変化に順応する
2章ではリモートワーク対応の組織論について解説しています。
GitLabによると、リモートワーク対応の組織には以下の5つの段階があり、自社が現在どの段階にあるのかを把握すべきだとしています。(それぞれの段階の細かい説明は省略しますので、気になったらオリジナルのPLAYBOOKで確認してください)
- リモート非対応
- 一時的なリモート許可
- リモート併用(リモートと非リモートのハイブリッド)
- ひとつのタイムゾーンを基準としたリモート
- 複数のタイムゾーンを跨ぐオールリモート
恐らく、今回のCOVID-19関連の騒動でリモートを導入した企業の大半は段階2 or 段階3止まりだと思われます。また、騒動長期化が現時点で懸念されていることから、段階2の企業も段階3へ移行する可能性がありそうです。ただし、特に段階3に関しては多くのデメリットがある点を指摘している点が興味深いので、(やや長くなってしまいますが)そのデメリットをGoogle翻訳で翻訳したものを以下に記します。
(段階3のデメリット)
- ハイブリッドリモートの従業員は、情報へのアクセスが少ない場合があります。 あなたがすべてを文書化する雇用主のために働いていない限り、あなたは、直接の同僚と比較してより少ないか不完全な情報であなたの日常の仕事を処理するように求められるかもしれません。 時間が経つにつれて、これは間違い、混乱、フラストレーション、さらにはパフォーマンスの低下につながる可能性があります。
- キャリアと開発の機会の減少。 視界の外にあるハイブリッドリモートの従業員は、昇給、昇格、および開発の機会のために引き渡される場合があります。 また、組織内で水平に移動する機会が少なくなり、進化するビジネスニーズに対応するための新しい役割を作成するための影響力も少なくなります。
- サテライトオフィスのような感覚。 ハイブリッドリモートの従業員は、会社の他のメンバーから孤立していると感じる場合があります。 面接プロセス中に、リモートの同僚がどのようにオンボーディングされ、含まれ、他の人に知覚されているかを尋ねることは重要です。 一部の従業員はこの治療法に気を取られないかもしれませんが、他の人に精神的および感情的な犠牲を払う可能性があります。
- 罪悪感を管理する。 主に同じ場所に配置されている会社で働いているリモートワーカーが罪悪感を表明するのを聞くことは珍しくありません。 彼らの社会化には、通勤について不平を言うかもしれない、または家族の機能に参加できないために悲しみを表すかもしれない同僚が含まれます。 リモートの従業員は同じ柔軟性に耐える必要がないにもかかわらず、同僚と共感する必要があるため、この取り決めには不平等があります。
- リモートのロビー活動の負担。 従業員が遠隔地で雇われているが、この配置がチームとマネージャー全体で等しくサポートされていない場合、遠隔地の従業員が物理的なオフィスに通勤することを強制されないという認識された特権を絶えず正当化している状況が発生する可能性があります。
- リモートが本当に提供およびサポートされているかどうかを判断します。 多くの大企業はリモートの従業員を容認しますが、リモートとして役割を公に宣伝したり、リモートでの作業をサポートしていることを公に認めたりすることはありません。 これにより、ロールを検索するときに、そのような組織内のリモートフレンドリーなマネージャーやチームを検索することに加えて、かくれんぼという面倒なゲームが作成されます。
- 例にされるリスク。 主に同じ場所に配置された会社の遠隔地の従業員が「では、どうやって遠隔地の手配を手伝ったのですか?」のような質問をされる可能性があります。 これにより、遠隔地の従業員は困難な状況に置かれます。 彼らは、さらに多くの同僚がリモートで作業できるように権限を与え、評判を損なう可能性のある原因を擁護することを選択するか、知覚された特典を自分自身に保つことによって役に立たないように見えます。
- パフォーマンスの向上に対する要求。 毎日長い通勤時間を過ごす同僚と働いているリモートの従業員である場合、対面のチームメンバーが期待する以上の結果を提供するというプレッシャーに直面する場合があります。 これは、同じ場所にいる従業員が柔軟性に欠けて通勤する必要がある場合、離れた同僚が簡単に降りられないように追加の結果を生成する必要があると推測する羨望の有毒な文化に由来します。
これらの知見は、GitLab社は元々オールリモートではなくハイブリッドで運用していた時期があり、その際に得られたものだと思われます。リモートを導入する企業は、段階3は過渡的な処置として、基本的に段階4以降への移行が望ましいと解釈できます。
(補足)
段階4(グローバル企業なら段階5)に移行できればオフィスをバーチャルオフィス(実体の無い登記専用のオフィス)にしても問題無くなるメリットがあります。例えば、従業員を1,000人抱える大企業であれば通常約3,000坪程度のオフィスが必要ですが、現在の東京都の3,000坪規模で借りられるオフィス(Aクラスビル)の賃料は坪単価3〜5万円/月ぐらい掛かるので、年間10.8億〜18億円程度の固定費削減を見込めます。これはやらない手は無いと思います。ただし、東京のオフィスは不足気味(先月段階で空室率1%を割っていた筈)なので、一度決断すると後戻りできなくなるリスクが想定されます。そのため、中々決断に踏み切ることができない企業が多くあるかもしれません。個人的にはこれを機に郊外にオフィスを移してしまうのも手だと思われるので、思い切ってやった者勝ちだと思います。経営者の決断力が問われます。
3章(リモートワークの基礎)
この章では、全てを文書化することとそれが適切に共有されることの必要性を指摘しています。これは、リモート対応か否かに限らず、全ての企業に必要なことです。GitLab社の場合、ハンドブックと呼ばれる仕組みで文書を蓄積&共有しているようです。GitLab社のハンドブックについては、日本語の記事であれば
コチラの記事で分かりやすく紹介されています。
(要点)
- 信頼を確立するには、非公式のコミュニケーションと社会的つながりを促進することが重要
- すべてを文書化し、会社のコミュニケーションに「ハンドブックファースト」のアプローチを採用
- 会議をオプションにして、すべての会議に議題を用意し、勤勉なメモを取り、不在の出席者の会議を記録するように要求
- 会社の価値観を体系化し、遠隔地の作業環境をサポート
(行うべきこと)
- 社会的相互作用を奨励
- すべてを文書化
- 必要に応じて会議を開く
(行うべきでないこと)
- 相互作用を仕事関連のトピックに制限
- 1:1の情報伝達に依存
- 会議を必須にする
4章(移行を実現する)
今回の防疫対応でリモートを導入してみたものの、結構大多数の企業が何かしら上手く行かないケースに直面しているものと思われます。GitLab社によるとリモートへの移行を実現するための鍵は「文書化」と「ワークスペースの確保」にあるとしており、本章ではその具体的な手段について(例えば、リモートのデスクやチェアはどういう風に設置すべきかなど、かなり細々と)言及しています。「リモートでやってみたけど上手くいかない」と感じられたら、この章の内容を実践してみると良いかもしれません。
(要点)
- 現実には、すべての企業がすでに何らかの形で離れています。 物理的な空間で何らかの相互作用が発生した場合でも、リモートファーストの手法を採用します。
- 人間工学に基づいた効率的な作業スペースを作成するように注意してください。 最適な作業環境は、人によって異なります。
- 文書化は全員の責任です。 質問して答えを受け取ったら、それを書き留めてください。
(行うべきこと)
- リモートファーストの考え方を採用
- ワークスペースに集中
- 質問に対する回答を文書化する
- 社内環境の再現を試みること
- 答えを得るために仮想の肩を叩く
5章(リモートコミュニケーション戦略)
リモートワークを導入する上での最大の障壁は、やはりコミュニケーションの壁であることは既に多くの方が痛感されているかもしれません。本章では、リモートでのコミュニケーションを成功させるための戦略について解説していますが、PLAYBOOKの中で最も多くのページを割いて解説しているので、その重要性を窺い知ることができます。要点としては、文書によるコミュニケーションを基本とした上で、文書によるコミュニケーションを成功させるため手段(低コンテキスト化、絵文字の多用、ツール標準化)について解説されています。
(要点)
- 文書化は日常の仕事です
- 低コンテキストの文化を実装して、コミュニケーションが簡潔で直接的になるようにします
- 絵文字を多用して、より包括的な環境を育てます
- コミュニケーションツールを標準化し、コミュニケーションの分裂を防ぐために使用します
(行うべきこと)
- ディスカッションを記録し、トランスクリプトを取得
- 積極的な意図を想定
- コミュニケーション過剰であることを恒常化
- 統合コミュニケーションツールの標準を設定
(行うべきでないこと)
- 会議などの同期コミュニケーションに依存する
- チームのメンバーがすべての事実を持っていると仮定する
- チームメンバーに対応するよう圧力をかける
- 時間に敏感ではない質問または完了したタスク
6章(リモート企業文化の確立)
最後にどのような企業文化にすべきかという点について言及しています。例えば、非リモートの職場環境では、毎日遅刻せず、朝掃除をし、真面目に仕事をし(あるいはしているフリをし)、上司のおべんちゃらに体よく付き合う社員がそこそこ出世するケースがあります。それも一種の企業文化なので否定するつもりはありませんが、そこに合理性を感じることができません。そのような価値の無い価値観に固執していると、大きな環境の変化が起こった時に淘汰されることになります。そういった時流の変化に対応する上で重要なのが柔軟な企業文化の確立だと私は考えています。この章に記されている内容は、GitLab社がどのような企業文化にすることでオールリモートという大きな変化に耐え得る組織となるに至ったかを示す臨床実験の経過報告だと解釈しています。
要点としては、(1)フィードバックの確立、(2)不文律の排除、(3)従業員のBurnout(燃え尽き症候群、鬱)回避の3点で、それを実現する鍵はやはり「文書化の文化」がその根幹にあるようです。
文書化することでアウトプットをベースとしたフィードバック確立と不文律の排除が容易になります。
もう1点留意しなければならないのが「働きすぎ」です。リモートだと始発や終電といった強制的なタイムリミットの成約が無くなることで、真面目な人や優秀な人ほど無制限に働きすぎる恐れがあるため、非リモート以上にその点に気をつける必要がありそうです。
(要点)
- あなたが報酬を与えるどんな行動もあなたの価値になる(フィードバックを提供する際に一貫してそれらを参照することにより、企業価値に対する信念と尊敬を構築)
- 遠隔地の文化では、不文律は存在しない
- メンタルヘルスを優先し、メンタルヘルスのリソースに簡単にアクセスできるようにする
- 休憩をスケジュールし、仕事以外のトピックについて同僚と交流する時間を毎週作る
(行うべきこと)
- メンタルヘルスの維持に積極的に取り組む
- 必要に応じてストレスを解消したり取り外したりするために実行できるアクションのリストを作成
- ビデオ通話を活用して、仕事に関係のないトピックについて同僚とコミュニケーション
- デスクから離れているときに他の人に警告するステータスを設定するか、離れている間カレンダーをブロック
(行うべきでないこと)
- 1日中オンラインでいなければならない
- 起きたらすぐに仕事をする
- 解釈のために詳細を残す
- 24時間年中無休でコンピューターに接続
- 愛する人との境界を設定することを恐れなければならない